大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所岡山支部 昭和57年(く)11号 決定

少年 E・D(昭四二・一〇・一四生)

主文

原決定を取消す。

本件を岡山家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、附添人・弁護士○○○○名義の「抗告申立書」に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

右申立の理由は、要旨、少年に対する調査官の調査は、中学担任教師からの事情聴取もしないなど、余りに杜撰、不十分であり、かつ事実に反する部分があつて、このような調査結果を前提とした原決定の前示保護処分には、同決定に影響を及ぼす重大な事実誤認があること、また、本件保護処分は、現在の少年の生活態度、両親の保護能力、本件における他少年の保護処分内容に照らして、著しく厳し過ぎ不当であるから、原決定の取消しを求めるというのである。

よつて、一件記録を調査のうえ検討するに、本件は、中学校生徒間の対立で、少年を含む○○中学校生徒十数名が授業中に○△中学校に押し掛け、同校庭に不法侵入した事案であるが、少年の非行歴は、右のほか、昭和五六年九月二四日一四歳未満の少年が単車の鍵を右生徒Aに渡し、同人が盗取した窃盗共犯事件で、同五七年三月二五日児童相談所で訓戒を受けた前歴を有するのみである。ところで、原決定は、少年を頭書の保護処分に付した理由として、「少年の性格、環境、本件非行に至る経緯と非行態様」、と記載するのみで、その具体的事実を説示しないが、本件非行に至る経緯と非行態様は、大略前示のとおりで、非行そのものは、右校庭に立入つたのみで、かつ、多分に付和雷同的な事案であつて軽微なものであることが認められる。そこで、少年の性格、環境について考えるに、調査官は、事実調査の結論として、少年の保護者は、これまで少年が欲する金品を与えるなどして、少年の我儘を助長した傾向にあり、また、少年の交友は不良であり、少年と近隣地域の友人との結び付が強く、それとの接触を断つことが著しく困難なため、これら交友グループ全体をみながら少年の指導をする必要があり、加えて、少年の無目的、無責任的な生活態度、自己抑制不良の点からして、右グループの行動如何によつて、少年がどのように変動するか、予測不能な面が強いから、少年を保護観察処分に付するのが相当であるというのであり、記録上、右調査官指摘の問題点の他に、特に指摘すべき点として、少年の喫煙、登校遅刻の頻発などが挙げられるが、他に処遇上、格別に重要と認められるものは見当らない。

ところで、少年保護事件は、その非行内容とともに、審判時における少年の要保護性が重要なものであることはいうまでもなく、右要保護性の調査について、少年が義務教育中の中学生で、現に通学中であり、しかも、本件非行や、それに係わる問題点が、多くは学校内で生じたものであることにかんがみると、少年の所属中学校、殊に担任教師に対する調査は必要欠くべからざるものであるところ、右担任教諭○△○○の所見書(一七九丁)によると、本件担当調査官は、本件に関して、右教諭から何ら事情聴取をしていないことが認められ、右調査官の本件調査はいささか杜撰のそしりを免れないが、右所見書によれば、非行後における少年が、三年一学期後半頃から高校入試を目指して、次第に勉学に意欲を持つようになり、徐々に学業成績も向上し、登校遅刻も三年二学期に入つて著しく減少し、教師の指導にも従い、現在では、本件非行グループとの接触を避けようと努力しているなど、学校内での生活状況は改善が認められるというのであつて、また、原審審判廷での少年の陳述によれば、前示児童相談所に指示された「学校で真面目にする」旨の誓約を現在では守つており、喫煙や、帰宅後の外出もしなくなつたというのであり、保護者(母)の陳述によれば、少年が、最近は全然外出しなくなり、友達も誘いに来なくなつて家庭に落着いているというのである。加えて、少年の保護者夫婦の仲は円満で、少年への関心も強く、母は、学校に赴いて少年の様子を見るなどしており、帰宅後の少年の外出、交友に対し、相当の注意を払い、非行の再発防止に努力しているなどの諸事実が認められ、これらの事実によれば、原審の審判時点において、少年の非行性は軽度であり、少年の交友環境は著しく好転し、また、保護者の保護能力も、前示担任教師など学校側の指導監督と相まつて、少年の非行再発を防止しうるものが認められる。更に、本件非行の共犯少年B、C、その他、D、Eらに対する原裁判所の処分結果との対比、均衡からみても、少年に対する本件保護処分は俄に首肯できないものがあること、「保護観察」処分が、高校、殊にその私立学校への進学に対し、軽視できない影響があることをも併せ考えると、前示原決定の保護処分は著しく不当なものというべきであるから、本件抗告は理由があり、原決定は取り消しを免れない。

よつて、少年法三三条二項前段、少年審判規則五〇条に則り、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 雑賀飛龍 裁判官 萩尾孝至 横山武男)

〔編注〕 受差戻し審(岡山家 昭五七(少)三一一三号 昭五七・一二・二一不処分決定)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例